便り
北窓の光は、傷を隠さない
南向きの光は、器を美しくします。北向きの光は、器を正直にします。北窓という店名は、景色のためではなく、点検台の向きのためです。
漆器の工房は、塗りを見るとき南の直射を避けます。家電も同じです。琺瑯の欠け、プラスチックの継ぎ目、ファンの軸の振れは、冷たい光の下でだけ輪郭を持ちます。ショーウィンドウの暖色は、それを溶かすためにあります。
机上灯を北窓の色温度に寄せたのも、その延長です。四千ケルビン。昼白に振り切らず、点検の続きが夜もできるようにしました。写真映えする光ではなく、傷が見える光です。
香林坊の二階は、ビルの北側です。午後も、窓は白く、影は濃い。来店した人が「暗い」と言うことがあります。暗いのではなく、商品照明を足していないだけです。足すと、台帳の意味が消えます。
器を持ち帰ったあとも、できれば北の窓辺で一度見てください。箱から出した瞬間の傷は、運送の跡か、工房の見逃しか。票番を添えて便りをください。北の光で撮った写真が、いちばん役に立ちます。