便り
香林坊の二階で、台帳を開く
香林坊の交差点は、金沢の昼を集めています。北窓はその交差点には面していません。路地を一つ入り、階段を上がった二階です。人が息を整えてから扉を開ける、その間が点検の準備になります。
一階は昔、漆の卸が置いていました。午後になると、今も膠の匂いが残ることがあります。家電の店に似つかわしくない、と言われます。似つかわしい必要はありません。器を見る場所としては、むしろ正しい残香です。
階段を上がってくる人は、すでに一台の器を頭に置いていることが多い。台帳を最初から読む人は少なく、票番を口にします。K-01、K-10、K-14。冬に多い三つの番号です。飯釜、加湿器、琺瑯のヒーター。
通りがかりの客を、北窓は期待していません。期待していない代わりに、在庫を積みません。三十二票は、今の頁に載っている上限です。次の点検が終わるまで、新しい番号は開きません。
呼び鈴は置いていません。扉を開けた音と、琺瑯のスイッチを探す手の音で分かります。予約の紙がある日は、窓辺にその票だけを出しておきます。香林坊の喧噪は、二階の北では、雨樋の音より小さくなります。